正直になれない大学生ブログ

趣味、鬱憤、等々つらつら書いていく。そんなブログ。

活字に想いをのせて

活版印刷日月堂(ポプラ文庫) ほしお さなえ

 

 私は、活版印刷を実際に見たことがない。もちろん印刷に使う版も。それでも、この作品は活版印刷の質感やすばらしさを伝えてくれた。

 

涙なくしては読めない?

 本当にそうだろうか?

 話は、弓子さんが川越の観光案内所にパートとして働き始めてから、三日月堂店主、弓子の印刷業が始まる。1章では、母から息子へのレターセットを。2章では、カフェで働く岡部とショップカード作りを。3章では、先生とその生徒で栞作り。4章で、結婚招待状の製作していく。

 それぞれの章で一人称が変わり、それぞれの思いが活版印刷というもの介して、こころが整理されていく様子は人の温かみが感じられた。

 ただ、すべてがそのパターンで飽きてしまう。それに1章1章が短いことや都合よく話が進み過ぎな部分もあって、2章目以降の語り手たちに感情移入がまったくできなかった。最後は感動したという意見が多いようだが、私は逆で、最終章は特に酷く、完全に置いてけぼりにされた。出てくる登場人物のキャラ設定もなんだか生かされていない感じで消化不良。

 

 読み手によるのは当たり前だが、私には、あまりにも素敵な話であり、現実ではないどこか夢の国の話なのかなと思ってしまう。

 

活版印刷の魅力

 散々言いましたが、活版印刷の魅力がこんなにも伝わってくる作品は無いと感じた。1章ごとに活版印刷に関する描写がすばらしい。

 三日月堂の店主である弓子の店に訪れた人々は決まって、その活字の量の膨大さに驚く。活字の描写とそれを説明する弓子の淡々とした口調、そして、その三日月堂に圧倒された人たちのセリフが活版印刷の魅力を引き立てる。

 また、活版印刷によってできた印刷物に対するセリフ回しも活版印刷の魅力を引き立てる一つの要因になっている。 

 例えば、『普通の印刷だと紙に文字が「張りついている」感じだが、これは凹んんでいるわけではないのに「刻まれている」。文字ひとつひとつが息づいているみたいに見える。』や『文字ひとつひとつに身体があって、それを並べて文章を作るんですね』など、読んでいると実際に活版印刷というものに触れてみたくなる。

 和歌や俳句、物語のワンフレーズが活字によって生きているものになる、という表現もよかった。

 

印象に残った言葉

 「まわりから見て個性に映るものって、その人の世界への違和感から生まれるものなんじゃないかな。それが強いほど人を惹きつける。でも、本人にとっては苦しいものなんでしょう?」

 

 …俳句の意味を問うセリフもよかったなぁ。